こんなん買っちゃいましたファイルNo.005

製品名

すいすい

製品種目

鰹節削り器

購入価格

4200円(税別実売価格)

発見日

1999年4月11日(日)

発見場所

池袋「東急ハンズ」2Fキッチン用品コーナー

総発売元

小椋製作所

製造元

小椋製作所

感想と講評

 塊の鰹節をごりごり削って花鰹(削り節)を作るという行為に、なんとなく憧れていた。
 そういえば、子供時代に祖母の家には鰹節削り器なるものがあった気がする。木製の箱になっていて、大工道具のカンナと同じ構造のモノが逆さまに箱の上にのっかっていて、削った花鰹が箱の中にたまるようになっていて、箱に付いている小さな引き出しを引っ張ると花鰹を取り出せるようになっている。祖母の家で使われていたそれは、なんだか年季が入っていて手垢でつやつやしていて、よく使い込んだカンナのようで、一度使ってみたいと常々思っていたんだけど「危ないから子供はあっちに行ってな」とか言われて、一度も触らせて貰えなかったような気がする。そうして大きくなった頃には鰹節といったらパックに入っているか、いろいろな厚みに削った状態で売られているモノのことをさすようになっていて、「鰹節を削る」という行為そのものがなくなってしまっていた。もっとも、鰹節を削ることなど、すっかり忘れていたのも事実だ。つい最近になって読了した本の一節に鰹節削り器で鰹節を削って食べる逸話が登場しているのを見て、「そういえば」と思い出した。思い出したらだんだん自分の中で「鰹節を削るというのは、なんかすっげー渋い大人の行いであって、アレをやらないウチはまだまだオレは子供なのではないのだろうか」という気持ちがこみ上げてきて、もういてもたってもいられなくなってきた。
 ただ、モノがモノなんで、そのへんの金物屋さんにはもうないわけで。生活骨董の店とか捜すべきなんだろうか、行きたいけどそうそう合羽橋にも行けないしな……などと悶々としていたのだが、試しにハンズを覗いてみたら――あった。
 僕の買ったすいすいという鰹節削り器は、刃の部分が鋼でできている他は、すべて木製。最近の改良された鰹節削り器は、ガイドレールの部分がステンレスになっていたり、刃がロータリー式になっていたり、二枚刃になっていて剃り跡爽快……じゃなく、効率的に削れるようになっていたり、本体そのものが総ステンレス製でコンパクトなハンディサイズでスタンダードでお求め安い1500円なものだったりする。職人さんの作った10500円なんて豪華なのもある。未だに鰹節削り器が売られていることよりも、今もなお「手で鰹節を持って削る鰹節削り器」の改良が続けられていることに驚いた。そのコーナーの横に家庭用かき氷器によく似た、ハンドルを回して鰹節を削る製品(これも昭和40〜50年代の製品らしい。ハンズも、どこから持ってきたのか外箱がべらぼうに古びていた)でオカカというベタベタな名前の近代的鰹節削り器があった。
 まあ、わざわざ不便なものを買ってきて悦に浸るというのもナニかと思うのではあるが、それでちょっといい気分に浸れるんなら、いいじゃん――とか思うのだった。

 ところで、削りたての鰹節に醤油をかけただけのものというのが、地酒にめちゃめちゃあうそうですな。


990411-007.jpg 試行錯誤しているうちに鰹節が小さくなってしまったので「せっかくだから良い物を買おう!」とかいって、上野アメ横に出かけた。ここで新たに上質の鰹節を見つけてきたのだが、鰹節の専門店伊勢音のおいちゃんによると「鰹節ってのは、手前に引いて削るんじゃなくて押すの。こう、手の平で押し出すようにしてさ、向こうへ押し出して削るんだよ」とのこと。……え!? そうなの!? 引いてたよ、オレ。どうりで削りにくいわけだよ。というか、鰹節が粉になっちゃうのはどうしてだろうと思っていたら、削る方向が間違ってたのね。さらに実家に電話して確認してみたら「押して削ってもうまくいかないんだったら、それは鰹節の目が間違ってるのよ」と言われた。目? 木目みたいなモンか? 鰹節にも目があるのか!?(あるわなぁ)
 ……そんなわけで、鰹節道は奥が深い! なんとか花鰹と呼んでもよさげなものが削れるようにはなってきたものの、まだまだあの伊勢音のおいちゃんが作って見せてくれたような、かんなくずのようにしゅるしゅると長い花鰹を削り出すには至らず。粉を作らず、鉛筆の削りカスのようにならず、しゅるるるるーっと長い花鰹が作れるようになるまでがんばらねば。伊勢音のおいちゃんも言っていた。「ひと手間を惜しんじゃダメだよ。3分、1分の手間で鰹節削って、おいしいモン食べる方がいいよ」いやまったく同感でございます。

 ……以下は実家との会話。
「ねぇ、うちに鰹節削り器ってあったっけ?」
「カンナみたいなヤツ? ああ、それはおばあちゃんちにあったね」
「うちでも昔削ってたような気がするんだけど……」
「あら。うちはもっと最新式のを使ってたよ。あんた覚えてないかね。ほら、かき氷作る機械みたいなのに、上から鰹節を差し込んで、こうハンドルをくるくると……」
「……それはもしやオカカとかいう……」
「なんだ、覚えてるじゃないの」
 ……うわああああ、ウチの実家にあったのは、そっちだったのか!(笑)